一夏の思い出。後立山行。[後編]
こんにちは🌞
トミタです。
今日は休暇中に行った山行のレポート、その後編になります。
前編がまだという方はこちらから↓
http://blog.houougoya.jp/?eid=1215040
さて、鹿島槍の頂を踏んだ僕でしたが、初のキレット越えを前にしてかなり緊張していました。
鹿島槍北峰を越えたあたりから険しい下りになり始め、手を使わずには下れない箇所が連続します。
あるときふっと遠くを見やると、稜線の連なるその向こうに小さく小屋が見えました。
キレット小屋です。
そこまで辿り着くには、その手前にあるキレットを越えなければなりません。
すでにそこそこ急な岩場の斜面を下っていたのですが、これからさらに険しい所を行かねばならないことを考えると、正直げんなりしました。
それからしばらく下ったのち、
看板。
今回の山場が目の前にその姿を現しました。
両側が切れ落ちた稜線の切れ目。
そこを細く縫うようにして道が通されています。
足元は細く心許ありません。
今日ほど好天に感謝した日はそうそうないのではないでしょうか。
くねっと折り曲げられた梯子。
一体何が起こったのでしょうか。
キレットをわたり梯子を乗り越えたその先は、ストンと落ちていました。
壁のようなそこにスイッチバックを繰り返す道はいよいよ細く、横ばいになって進み、手足を使って下ってゆきます。
道中に岩を砕いた跡が。
強い意志を感じさせられます。
小屋に降り立ち後ろを振り返ると、崖のような山肌。
とんでもない所に道を通し小屋を建てたものです。
山を拓いた人々の苦労がここでも忍ばれます。
キレット小屋は人の気がなく、2~3人の人が外のベンチで休むのみ。
これまでの小屋と異なる、ひっそりとした雰囲気です。
一息ついて出発します。
この日泊まる五竜山荘は、ここからさらに五竜岳を越えた先にあります。
まだまだ道半ば。
ここからはモリモリと登り返します。
しばらく進んだその先に
そびえるは五竜岳。 ……遠い。
ところどころ岩場やガレ場を越えて行き、
五竜岳の手前の岩山、G5に着きました。
この先にはG4もあります。321…と続きもあるのだろうか。
岩陰に咲く上品な花。
ホウオウシャジンを思わせるこの花は、「チシマギキョウ」だそう。
黙々とガレ場を登り、まもなく五竜岳の山頂……!
と、その時。
「いい時に来たね!」
すれ違いの女性にそう言われて、何かと思って上へ行くと、
五竜岳の道標が今まさに立ち上がる瞬間でした。
作業されていたのは五竜山荘のスタッフのお二人。
訊くとどうやら、以前の道標は人のいない時期に何者かが持ち去ったのだそう。
雪深い時にそんなことをする人がいるとは。
労いの言葉をかけて今日の宿へ向かいます。
見えてきました。
五竜山荘です。
武田菱は五竜岳の雪形だそう。
本来こちらではテント泊するつもりでいたのですが、残念ながらテン場はいっぱいということで、素泊まりで予約させていただきました。
夕暮れにはガスが抜けてきれいな夕焼けに。
放射状の光線が美しく、多くの人が日が沈んでゆく様を見届けていました。
明日に期待が高まります。
…が、実際にはそうはいきませんでした。
迎えた翌日。
外は強風にガスが飛んでいました。
朝から不穏な予感です。
この日は台風の影響で天候が不安定で、富山側から強い風が吹いていました。
それに加え、雨が降ることも予想されます。
前々からわかっていたことでしたが、ここまでひどいとは。
居合わせたレンジャーとお客さんから「エスケープ」の単語が聞こえてきました。
実はこの日、今回の山行の一番の難所である、不帰嶮がひかえていました。
不帰嶮は八峰よりも険しいキレット。
こんな天候で大丈夫だろうか。
滑落や遭難、イヤな想像が脳裏に浮かびます。
とにかく行ってみよう。
それで様子を見て判断しよう。
どこか少し楽観的な自分がいることを自覚しつつ、雨が降り始めた強風の中を、唐松岳そしてその先の不帰嶮へと向けて歩き出しました。
唐松岳とその手前の大黒岳との間には、牛首という岩場があります。
すこし高度感のある箇所なのですが、そこへ差し掛かる頃には雨風ともに激しく、頬を叩きつける雨滴が痛いほどでした。
濡れた岩はよくすべり、雨とガスで視界も利きません。
どこまでも続くように思われた牛首でしたが、ガスの中から突然に現れた唐松山荘によって、終わりが告げられました。
幸い、時間には余裕があり、まだ朝の早い時間でした。
しばらく雨宿りをさせてもらって様子を見ようと考えたのですが、残念ながらそれは叶わず。
唐松山荘では休憩は出来ず、依然弱まる様子のない風雨に晒されます。
このままここで停滞してはかえって寒さに体力を奪われてしまう。
そう思い、とりあえず先に進んでみて、行けるかどうかその場で判断することに決めました。
ベンチのない山荘の前を出発して唐松岳へ向かうと、向こうからお兄さんが一人歩いて来ます。
訊くと、彼は今朝不帰嶮を越えた先の天狗山荘を出て、キレットを渡ってきたらしい。
これはイケるかもしれない。
しかしその心境とは裏腹に、唐松岳を過ぎると風はますます強くなり……
キレット手前の第二峰に着いた頃にはかなりの悪天候になってしまいました。
時折突風が吹くと体がよろけるほど。
既に靴は浸水して、眼鏡は曇ってしまい、掛けないほうがマシではないかと思えました。
それでもとにかく、不帰嶮の顔を見るまでは帰れない。
半ばヤケになって進んでいたところ、
足元に雷鳥が。
彼は横にそれることもなく、僕を導くように先へ歩いていきます。
追われているだけなのか、先導しているのか。
しばらく行って彼は広くなった所で脇に逸れ、そこで足を止めました。
その先ハイマツが途切れて、いよいよキレットの中核に迫ろうとしています。
僕は少しだけそこから足を進めて、岩場の始まるその手前まで行き、その場でしゃがみこみました。
この風雨のなかキレットを進むか、引き返すか。
考えたとき、僕はハッとしました。
風はしゃがまなければならないほどに強かったのです。
引き返そう。
僕は踵を返して、ドウドウと吹き付ける風雨の中、来た道を辿り始めました。
すると、先の場所にまだ雷鳥がいます。
僕の姿を見ると、また同じ方向へ歩き出し、そして飛び立って ( あるいは吹き飛ばされて ) 姿を消しました。
まるで僕のことを待っていたようだ。
僕は正しい判断を下したと確信しました。
きっと雷鳥は知っていたのです。
あの先へは進めないことを。
時折風によろけつつも、無事に唐松山荘まで戻って、すぐにそこから八方尾根へエスケープするべく下ってゆきます。
さらば不帰嶮。さらば白馬。
またきっとここへ来て、歩き通そう。
ハイマツの中を下るとダケカンバの樹林帯に入り、またしばらく行くと森を抜けてハイマツが広がるようになりました。
その広い尾根のガスの先に、大きな池が見えます。
八方池です。
地図上でその存在は知っていましたが、予想以上に美しい場所でした。
池から先は木道で完全に整備されていて、既に山から下りてしまったような感覚になります。
気持ちのいい草原のような池塘をだらだらと下り、
登山口に到着。
ここからリフトとゴンドラを乗り継いで下界へ。
あっという間の下山です。
下に着くと天気雨の降る穏やかな天気。
まるで別世界に来たような感覚と同時に、こちらが現実で山の上は過去の世界だという認識の入れ替わりを覚え、山の旅の終わりを実感しました。
好天の山行、友人、キレット、猛烈な雨と風。
内容の濃い今回の旅は、短いながらに充実した山行でした。
しかし同時に、全行程を歩けずに物足りなさを覚えたことも事実です。
きっと次こそはあのキレットを越えよう。
松本へ向かう電車の中でこの数日を反芻しつつ、いつか歩く後立山の後半を思い描きました。
一夏の山行はこれで終え、ここから数日を松本でまったりと過ごしたのですが、それはまた別の話。
次はどこへ行こうか。
まだ見ない山々へ期待が膨らみます。
それでは、また。
トミタ
五竜岳と小屋を結ぶ登山道脇を、大勢の登山客の熱い視線も気に留めず、ザレに脚を取られながら親鳥を追っていた若鳥は、疾うに世代交代したんだろうなぁ
腿肉、美味しそうだったなぁ( ̄¬ ̄)