アコンカグア12日目NO.4~Don't worry.Don't think.Just enjoy.~

背後に見える山々が美しい。奥左は名峰メルセダリオ(6,770m)
《インデペンデンシア小屋へ》
アコンカグア出発前、ぼくはメンドーサの街にある「Square Independencia」というゲストハウスに滞在していた。
ちょうど出発前日、二人の陽気な男たちが宿に入ってくるのに出くわした。
二人とも肌が黒く、ヒゲもじゃ。年齢は30歳くらいだろうか。彼らがこちらを振り向くと、鼻の頭が真っ赤に日焼けしていたので、彼らがアコンカグアのサミッター(登頂者)であることがすぐにわかった。
隣にいたカナダ人のディランが巨体を揺らしながら近寄って行き、矢継ぎ早に質問を投げかける。「お前たちはアコンカグアに行ってきたな。登頂できたのか」「何のためにそんなことをするんだ。登った高さをまた下りるだけだろう」「カナダの山には登ったのか。何、まだ登っていない。カナダの山は…」などなど。
山に登らない彼は、山に登る人間が不可解でならないらしく、初対面の人を捕まえてはこれらの問答を投げかけるのだ。この癖を除けば、とてもいいやつなのだが…。
ひと通りの質問が終わったところで、ディランは「あいつも明日からアコンカグアに行くぞ」と彼らにぼくのことを紹介した。
ぼくが彼らに握手を求め、「Congratulations!」と言うと、二人のうちの、よりヒゲもじゃの男が言った。
「君にいいことを教えてあげよう。”Don’t worry. Don’t think. Just enjoy.” これがアコンカグアを登る秘訣だぜ。Good luck!」
その後、彼らと何を話したのか、すっかり忘れてしまったが、この言葉だけは心に残っていて、幾度となく自分を助けてくれた。
“Don’t worry. Don’t think. Just enjoy.”
(心配するな。考えるな。ただ楽しめ。)
そう、すべてはなるようにしかならないのだ。
できることは、目の前の山と一歩一歩に集中することだけ。
この言葉を支えに、ぼくはインデペンデンシア小屋(6,380m)にたどり着いた。
アオト